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読書好きおじさんの小説紹介的雑文集

『雪沼とその周辺』堀江敏幸

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★★★★★


とても良かった。堀江敏幸さんの短編集、『雪沼とその周辺』。川端賞、谷崎賞受賞作。


この小説には7つの短編が収められている。それぞれ独立した話だけども、タイトルからもわかる通り、全ての短編の舞台が「雪沼」という地とその周辺で、登場人物だったり、その風景が、さり気無く繋がっている。7つの短編全てを読むと、「雪沼」という架空の土地が、そしてそこに暮らす人々やその風景が、確かにそこにある、という気にさせられる。


「雪沼」という寒そうな地名とは裏腹に、そこに暮らす人々は温かい。温厚篤実。篤実という言葉は、この小説の解説で池澤夏樹さんが使っていて、気に入ったので僕も使うことにした。笑。情に厚く誠実、といった意味。


そして、この温厚篤実という四字熟語を知り、ああ、やっぱりこれが自分の理想なのだと、改めて実感した。つまり、この小説の登場人物たちが皆そうであって、それに触れることで、自分もやはりこういう温厚で篤実な生き方をしたいと願っているのだなと実感したということでございます。


そしてこの小説の肝は、それぞれの短編の登場人物たちに共通する、「道具」に対する愛情、愛着心だと思う。それが篤実さとして伝わってきた。


僕も一応、職人と呼ばれる仕事をしていて、そこには自分の「道具」があって、その「道具」を使うことで自分を表現している。なんだか、こう書くと大袈裟な気もするけども、そう思うようにしている。しているけれども、忙しいなどと言い訳をして、手入れを疎かにしてしまうこともよくある。


この『雪沼とその周辺』を読んでいて、改めて「道具」への愛情を持って仕事をしたいと思ったし、それを忘れてしまいそうな時には、この小説を読めばいいんだ、となんだか安心した。というか「道具」だけではないね。様々な「物」を大切にしたい。そういう意味でも、この小説は大切に手元に置いておきたい。

まとめ

本当に良い小説を読んだな、という感じ。なかなか出会えないもんですよ、これだけ自分にしっくりくる小説は。堀江敏幸さんの小説は初めて読んだけど、文体自体が好みだし、他のも読んでみようと思う。

とりあえずこの『雪沼とその周辺』。全ての日本人にオススメしとく。